2021年8月の第56回気象予報士試験に合格しました。気象庁に登録手続きを出しましたので、2週間後くらいには気象予報士になっていると思います。
気象予報士試験はマーク式である一般と専門知識、そして記述式である実技試験で構成され、一般と専門知識で合格基準 (回によって変動があるものの、目安はどちらも15問中11問以上) に達しないと、実技試験は採点されない仕様です。一般・専門知識は科目合格制度があり、それぞれ合格点に達していると、合格から1年以内に実施される試験で該当科目が免除になります。そのため1回目の挑戦で一般・専門知識に合格、2回目または3回目で実技試験の突破を目指す、というのが一般的なようです。
一方で私は今回、1回の試験で一般・専門・実技すべての科目で合格点に達し、一発合格となりました。今回、大阪会場で受験しましたが、同会場で一発合格になったのは500人ほどの受験者に対してわずか4名でした。ここまで通信教育に頼ることなく、独学で勉強を勧めてきました。参考になるかどうかはわかりませんが、忘れないうちにどういう対策をしたか、記録に残しておきたいと思います。
気象予報士になることへのモチベーション
気象予報士は言わずとしれた有名・難関資格であり、漠然とした憧れがありました。古本屋で気象予報士試験のテキストを買ってパラパラと眺めたことはありましたが、本気で受けようとは思っていませんでした。きっかけはすごく単純ですが、前職の後輩が気象予報士試験に挑戦していると聞いて、興味を持ち、せっかくなので挑戦してみるか、という気持ちになったところです。また研究室で実施していたクラウドファンディングで日本気象予報士会のメーリングリストにもお知らせをさせていただいたこともあり、気象予報士のコミュニティにも興味を持ちました。そして私自身、気象レーダーや雷の研究をしているので、気象予報士を持っていると研究開発の役に立つかなと思っていました。
前提知識
大きいのは大学受験で物理と地学を選択していたことだと思います。物理は大学でも専攻していたのでともかく、地学は東大受験のために浪人中に勉強をはじめました。その中には気象に関する項目もあり、気温減率 (乾燥・湿潤の別やフェーン現象) や温帯低気圧の仕組み (前線や500hPa天気図におけるトラフとの関係など)、コリオリ力や地衡風、低気圧高気圧の回転方向などは勉強していました。
またもともと天気図を見るのは好きでしたし、雷の研究をしている以上、冬になると毎日天気図や気象レーダー画像を確認します。そして今では気象レーダーの開発に携わっており、その周辺の知識は十分にある、といった具合でした。
国家試験という観点では、2019年8月に受けた第一種放射線取扱主任者試験に合格しています。このときの経験から、過去問を解くことの重要性、そして法令関係の問題をいかにして解くか、というところは身についていたように思います。
スケジュール・勉強時間
気象予報士試験を受験しようと決めたのは2021年6月中旬で、出願締切が迫っていたので急いで願書を出しました。試験までは2ヶ月しかありませんが、最初の4週間は一般・専門試験の対策・テキスト読み込み、次の1週間で実技試験のテキスト演習、そして最後の3週間で過去問演習を行いました。平日はおおよそ1時間から2時間程度の勉強時間を確保し、また過去問演習の期間に入ると大学もお盆休みで半強制的に休暇となったので、1日8時間から10時間の勉強時間を確保して、過去問演習を一気に進めました。総勉強時間は100時間から150時間の間だと思います。これは合格者の中ではかなり少ないほうだと思います。
一般・専門試験対策
私は「読んでスッキリ!気象予報士試験合格テキスト」で一般・専門対策を行いました。この本に書いてあることをすべて頭にいれることができれば、学科試験は合格点を取れると思います。問題はどうやって内容を頭に入れていくかということです。私の場合、まず1回は通し読みをして、気象予報士試験にどれくらいの内容・範囲が出題されるかを把握することに努めました。記憶するというよりも、まず内容を理解することに重きをおいて勉強したと思います。
覚えられないとはいえ、大半の内容は理解は出来ました。1回で理解できなかったのは温位や相当温位の概念でした。ここは1回通読した上で戻り、エマグラムを書いて本質の理解に努めました。
一通り読み終えたあと、問題演習を通して理解を深めていきました。問題演習は「気象予報士過去問徹底攻略 改訂3版」を利用しました。この問題集には古い過去問を含め一通りの範囲がカバーされています。問題を解くだけでなく、すべての選択肢の内容を完璧に理解するため、気象庁のHPを覗いたり合格テキストに戻ったりしました。ただしこの問題集に掲載されている問題はやや易しいレベルのように感じられました (書籍版は絶版になったかもしれません)。
一般で絶対に落としてはいけないのは法令に関する部分だと思います。気象予報士試験では気象業務法を中心に災害対策基本法、水防法、そして消防法が対象の法令です。私は第一種放射線取扱主任者試験に合格していると前述しましたが、放射性同位元素等の規制に関する法律 (2019年に放射線障害防止法から名称改正) と比べると気象予報士試験の法令関係の出題範囲はかなり少ないです。法令関係は重箱の角をつつくような問題が少ない一方で、一般試験の15問中4問を占めるので、ここを制したものが一般試験を制すると言っても過言ではないと思います。一度は気象業務法を通読すること、そして出てくる数字などキーワードを効率よく覚えることが必要と思います。めざてんサイトのまとめが直前対策で重宝しました。
ここまで到達するのにおおよそ1ヶ月かかっています。このあと1週間ほど実技試験対策をした上で、一般・専門の過去問を解いていきました。過去問は1時間の試験時間に対しておおよそ30分くらいで解けたので、5年10回分をまずは1周しました。このとき、得点は6-9点くらいで、合格基準には全然達していませんでした。過去問を解くことでどのあたりの理解があやふやかを明らかにしていきました。特にすべての選択肢を完全に理解できるように、解説やテキストを読み込んでいきました。
10回分を一通り解き終えたあと、再び「読んでスッキリ!気象予報士試験合格テキスト」の通読を行いました。この時点でテキストに書かれていることの70%くらいが頭に入っている状態でしたので、残りの30%を完全に覚えるため、理解があやしい部分についてノートにまとめていき、100%の理解を目指しました。このあとに過去問2周目を、1回目に不正解だった問題を中心に解きました。ここまでが試験1週間前で、残りは実技試験の勉強にあてるため、一般・専門試験の勉強はここで打ち止めとしました。
過去問演習では第55回の解答解説は「令和2年度第2回 気象予報士試験 模範解答と解説」を使用しましたが、それ以前については「めざてんサイト」に掲載されている解説を活用しました。本当にお世話になりましたので、この場をお借りして感謝申し上げます。
実技試験対策
一般・専門試験のテキストを一通り読み込んだあと、実技試験のテキストをこなしました。「らくらく突破 気象予報士かんたん合格テキスト 実技編」を利用しました。基礎知識をまず簡単に頭に入れたあと、テーマ別事例演習をこなしていきました。実技試験は全くわからないという問題は少ないですが、とにかく天気図や衛星画像の特徴を出題者の意図を抑えた日本語でまとめる必要があり、ほとんど国語の試験と言えます。問題演習をしていく過程では何が問われているか、どのような特徴が気象予報に重要化を考えながら解き、また模範解答を写経するようにしました。自己流の解答でもある程度は点数が来ると思いますが、それでも模範解答を写経し、合格する文章とはどんなものか、しっかりと頭に叩き込んでおく必要があると思います。
上記の訓練を1週間で行った後、一般・専門試験の過去問を解き、そして実技試験の過去問演習に取り組みました。一般・専門試験は時間に余裕があるので、1時間の試験内容を30分で解くことが出来ましたが、実技試験は時間との戦いで、75分の試験内容を初見では90分くらいかかっていましたので、本番までに2年半5回分10セットの問題を1周することしか出来ませんでした。
まずは穴埋め問題を100%確実に全問正解できるように努めました。そのために実技のテキストのまとめも参照しながら、海上警報や十種雲形の記号、現在天気の記号などを確実に覚えていきました。論述問題はやはり自分の解答と模範解答の何が違うかをしっかりと見極め、最終的には模範解答を写経していきました。
実技試験はとにかく時間が足りない試験ですので、最初の穴埋めを素早く正確に行えるように心がけたことと、記述問題は制限字数からどの程度の情報を盛り込むか瞬時に判別し、頭のなかで文章を練り上げ、一気に書き下す、ということを心がけました。もはや気象の試験ではなく、気象予報士試験の難しいところだと思います。試験前日には前回の実技試験を時間を計って模擬試験のように取り組み、採点しました。2回目に解くというのはありますが、このときには70-80点くらいの得点率でした。
ちなみに実技試験で苦労したのは十種雲形の記号を覚えることでした。これにはなかなか苦しめられました。また過去問で十種雲形をアルファベット2文字で表わせ、というのも出ていたので、こちらも記憶しました。もっともアルファベット2文字は英語 (ラテン語?) から来ているので、その語源を抑えるとすぐに覚えられましたが。
あと実技試験で重要なのは色鉛筆、コンパス、定規の使い方だと思います。コンパスは本当に重宝しました。低気圧中心を別の天気図に素早く書き移せるように、訓練しておくと良いと思います。また定規で計って距離などを正確に出せるように、例えば緯度10度が1110km (600マイル) に相当するなどを瞬時に使えるようになっておくことも重要だと思います。
本番
私は大阪会場でしたので、大阪府立大学杉本キャンパスで受験しました。自宅からは電車で行ける範囲です。このために宿泊して受験される方は本当に大変だなと頭が下がる思いです。
朝はあまり強くないので、一般試験はちょっと頭の回転が鈍かったように思います。しかし試験時間は十分にありましたので、解き進めていくうちに本調子が出てきました。過去問演習では見直しを一切していなかったので、本番ではケアレスミスを絶対にしないため、マークミスも含めて余った時間は念入りに確認しました。同様に専門試験も乗り切りました。
一般・専門試験が終わったあと、どちらも2問くらいはわからない問題がありました。しかしとにかく実技が終わるまではそのことを気にせずに、テキストなどで答え合わせをしないようにし、お昼休みには実技に必要な知識をおさらいして過ごしました。
会場は中年男性が目立っていたような気がします。また2割位は最初から空席があり、午後の実技試験を受ける頃には半数以上が空席になっていたように思います。全受験、一般免除、専門免除、一般・専門免除のそれぞれで受験番号の上2桁目が異なるため、私の受験室は全員全科目受験でした。まずは一般・専門の合格を目指し、午後は受けないという人が多かったように思います。
午後の試験は時間との戦いというのもあり、体力勝負でした。2回の1時間15分の試験中、100%の集中力を保ち続けることができるかが一つのポイントだと思います。今回、実技試験1はほとんど時間が余りませんでしたが、なんとかすべてを埋めることが出来ました。実際、記述問題が多くて穴埋め問題が少なく、難しかったと思います。実技試験2は10分ほどを残して全部を埋めることが出来たので、見直しする時間がありました。
試験で良かったのは、受験票をセロテープで机に固定しておく、という情報でした。実技試験で使用する大量の天気図、私は最初に全部切り離しましたが、そのあとどんどん机がカオスになっていくので、受験票に気を取られず試験に集中できたのは良かったと思います。
結果
自分としては実技試験で実力をしっかり出し切れたと思っていたので、一般・専門でミスをして落としてなければ良いな、というのが心配点でしたが、結果として一般は13点、専門は12点で、大きなミスをしていなくてホッとしました。実技試験は時間がなくて解答を問題用紙に残せていなかったので、どれくらい正解していたかはわかりませんが、前線や等圧線の作図問題はかなりいい解答になっていたようでした。
お盆休みを利用して勉強時間を稼いでいたので、今回で受かっていなかったら次回はどうしようか、とかなり迷っていたので、1発合格出来たのは本当に嬉しいです。今後は気象予報士としての知見を研究に活かしていきたいと考えています。
取得にかかった費用
最後に気象予報士試験の合格までにかかった費用を列挙しておきます。
・読んでスッキリ!気象予報士試験合格テキスト (2310円)
・らくらく突破 気象予報士かんたん合格テキスト 実技編 (3520円)
・気象予報士過去問徹底攻略 改訂3版 (2750円)
・気象予報士試験 模範解答と解説 55回 令和2年度第2回 (2860円)
・気象予報士試験 全科目受験 (11400円)
合計 22840円 (交通費・郵送費・過去問の印刷費などは含まず)
この他に実技試験用としてフリクションペン、定規、コンパス、クリップ、ルーペなどを調達しました。